8.纏め

 これまでの各注釈書の内容は大まかに4つに分類可能です。それを示したのが以下の表です。

各注釈書の諸説分類

固有名詞説

派生名詞説

派生名詞起源・
固有名詞転化説

他言語起源説

イラーフ

それ以外

タバリー

ザマフシャリー

ラーズィー

×

クルトゥビー

バイダーウィー

×

イブン・カスィール

ジャラーライン

シャウカーニー

凡例:◎(自説として採用した説)、△(異説として紹介した説)、○(どちらかというと支持者の多い説)、□(どちらかというと支持者が少ないが有力な学者達の支持を受けた説)、×(可能性が排除されたかごく脆弱な説)、-(言及無し)

[出典]各注釈書をもとに筆者作成

 以上の表より、ほとんどの著者は旗幟を鮮明にしていますが、だからといって異説を排除しているわけではないのが明確かと思われます。

 信頼性の高いハディースに依拠したイブン・カスィール、著名なアシュアリー派神学者のラーズィー、さらにジャラーラインが固有名詞説を採っています。他方、派生語説を採るザマフシャリーも「アッラーフという言葉は正当な【崇拝される者】専用である」としていることから、実際の運用面では両説の間に大きな祖語が生じるわけではありません。また、ザマフシャリー系統の最重要解釈書であるバイダーウィーでは、派生名詞起源・固有名詞転化説が採られ、転化後は固有名詞のようになったしており、固有名詞説との差異はさらに小さくなったと言えるかと思います。