このたび、現代のイスラーム学者であるアブドゥッラフマーン・アッ=シーハ師より『イスラームのメッセージ』を日本語にて送付いただきました。
現代のイスラーム世界では、クルアーン(コーラン)とハディース(預言者の言行録)を典拠として常に引用するような書き方が増えていますが、同書もこのような文体であるためにクルアーンとハディースの引用が内容のかなりの部分を占めています。これらの引用は、クルアーンからは「クルアーン17:33」によって、ハディースからは「○○○の伝承」(例えばアル=ブハーリーの伝承)と記されることによって区別されています。
同書の全体の構成は、以下のとおりです。
概論:「1. はじめに」~「5.イスラームの精神的側面」
信仰箇条:「6.アッラーへの信仰」~「17.定命への信仰がもたらす諸利益」
イスラーム法:「18.イスラームの基幹」~「35.その他の一般的権利と義務」
倫理:「36.イスラームの道徳的側面」~「53.商取引におけるマナー」
結語:「54.最後に」
同書の内容は、現代のムスリム(イスラーム教徒)によって著された非ムスリム向けの入門書としては、標準的かつ包括的であるように思われます。この本を読めば、現代のムスリムがイスラームをどのようなものとして理解しているのか、どのようにイスラームを紹介したいと考えているのかといったことの大枠が把握できます。ムスリム(イスラーム教徒)が希求するイスラームの理想がわかりやすく述べられています。
また、現代のムスリムはイスラームをなんとか他者にもわかりやすいように説明できないだろうかと試行錯誤を重ねています。
例えば、「18.イスラームの基幹」がイスラーム法の神事編を簡素化しています。
さらに、「19.イスラームの政治的側面」~「35.その他の一般的権利と義務」はイスラーム法の人事編を欧米人にも理解しやすいであろうと想定されている「権利」という観点から著述されています。イスラームでも権利という概念は重要ではありますが、その視点からイスラーム法を説明し直すのは近代以降の試みだろうと思います。
内容についても、古典的なイスラーム法では婚姻章の後には離婚章がくるのですが、この本では離婚の諸規定は省いた上で、婚姻章の規定を権利という視点から編纂しています。
(K.S.)
ダウンロード:イスラームの メッセージ(PDF)