ザカートを拒絶した場合の罰

 ここで言う罰とは、現世における罰のことです。

 ザカートを拒否した者が、イマーム(政治指導者)の勢力下にあるか否か、ザカート支払いを義務として認めているか否か、といった場合に分かれます。

 ここで注意したいのは、義務として確立している行為を否定することと、義務を怠ることとの間にはイスラームの観点からは大きな違いがあります。これが、イスラームを理解する鍵の1つです。

 以下は『イスラーム法百科』の要約です。

  1. ザカート拒否者がイマームの勢力下にいる場合は、力によって徴収される。
     これは、預言者の御言葉「私は、人々がアッラー以外に神はなくムハンマドは神の使徒であると言うまで戦うことを命じられた。もし、彼らがそう言えば彼らの血(=生命)と財物は私から守られるが、権利によるものは別である。彼らの(胸の内に隠したものの*1)精算は、アッラーがこれを担う*2。」に基づくが、ここに述べられている権利の1つがザカートである。
     アブー・バクル(第1代正統カリフ)は教友達の集まりに於いて「ザカートは財物の権利(=義務*3)である」と述べ、
    「神かけて、私は礼拝とザカートを分ける者(※礼拝は義務として履行するが、ザカートは義務として履行しない者)と戦う、神かけて、たとえ彼らがかつて神の使徒へ差し出していた雌の子山羊*4を私に拒むのであっても、私は彼らとそれについて戦うであろう。」としており、教友もこれを承認した*5
     強制的にザカートが徴収された場合、それ以上に罰金などが科せられることはないというのが通説。典拠は預言者の「ザカート以外に財物における権利(=義務)はない」というハディース等*6
  2.  イマームの勢力外にいる者がザカートを拒んだ場合、イマームはその者と戦わなければならない。というのも、教友達はザカートの支払いを拒んだ者達と戦ったからである。
     もしイマームが勝てば、ザカート拒否者からザカート分のみが徴収されるというのが前述したように多数派の見解である。これは、ザカートの義務性を認めていた者が、吝嗇によってもしくは解釈によってザカートの支払いを拒んだ場合であって、彼は不信仰者とは判断されない。従って、彼が戦闘によって死亡した場合は、彼の遺産は近親者のムスリムによって相続され、葬儀の礼拝が行われる*7
  3. 他方、ザカートの義務性を否定しその支払いを拒んだ者に関しては、(以下のとおりである)。
     (その者が)無知である者の場合、例えばイスラームへの入信が新しく無知である場合や都市から離れた辺境地に生まれ育ったことによる場合などであるが、彼にはザカートの義務性が教えられ、不信仰とは判断されない。
     (ザカートの義務性を否定しその支払いを拒んだ者が)ムスリム(イスラーム教徒)でありイスラーム諸国において学者達の間で生まれ育ったのであれば、不信仰と判断され、背教者となる*8

 以上が要約となります。

 先のアブー・バクルの言葉は633年からのリッダ戦争の背景を理解するのに役に立ちます。リッダとは離反や背教を意味した言葉で、リッダ戦争とは預言者ムハンマドの時代にイスラームに入信したアラブの諸部族が、632年のムハンマド没後に反旗を翻したことに対して、アブー・バクルがその討伐のために戦った歴史的に有名な戦いのことを指します。

 また、ザカートの支払いが義務であり強制的に徴収される、という点では税金にも似ており、西洋では the alms-tax (救貧税)とも訳されてきました*9。ただし、配分先が限定的であることといった違いも大きいと思われます。

 なお、現在ではムスリム諸国ではザカートの強制徴収は行われず、個人の良心による支払いが行われています。


*1

فتح الباري،

قوله: (و حسابهم على الله) أي: في أمر سرائرهم

*2

صحيح البخاري، الإصدار 2.03 – للإمام البخاري

1335 – حدثنا أبو اليمان الحكم بن نافع: أخبرنا شعيب بن أبي حمزة، عن الزهري: حدثنا عبيد الله بن عبد الله بن عتبة بن مسعود: أن أبا هريرة رضي الله عنه قال:لما توفي رسول الله صلى الله عليه وسلم وكان أبو بكر رضي الله عنه، وكفر من كفر من العرب، فقال عمر رضي الله عنه: كيف تقاتل الناس؟ وقد قال رسول الله صلى الله عليه وسلم: (أمرت أن أقاتل الناس حتى يقولوا لا إله إلا الله، فمن قالها فقد عصم مني ماله ونفسه إلا بحقه، وحسابه على الله). فقال: والله لأقاتلن من فرق بين الصلاة والزكاة، فإن الزكاة حق المال، والله لو منعوني عناقا كانوا يؤدونها إلى رسول الله صلى الله عليه وسلم لقاتلتهم على منعها. قال عمر رضي الله عنه: فوالله ما هو إلا أن قد شرح الله صدر أبي بكر رضي الله عنه، فعرفت أنه الحق.

日本語では牧野訳『ハディース』2巻68-69頁。

なお、日本語訳では「ウマルはアブー・バクルに『どうしてあなたはあの人達と戦おうとしないのか』」と訳されているが、これは明らかに「戦おうとするのか」の間違いである。

*3 アラビア語では前後の文脈によって義務(الوجوب)と権利(الحق)という単語が、それぞれ逆の意味を持つ場合がある。

*4

عناق: هي الأنثى من أولاد المعز. الفقه الإسلامي و أدلته، ج2، ص735

*5

الموسوعة الكويتية

من منع الزكاة و هو في قبضة الإمام تؤخذ منه قهرا لقول النبي (ص): (أمرت أن أقاتل الناس حتى يقولوا لا إله إلا الله، فمن قالها فقد عصم مني ماله ونفسه إلا بحقه، وحسابه على الله) و من حقها الزكاة، قال أبو بكر (ر) : ((و الله لو منعوني عقالا كانوا يؤدونه إلى رسول الله (ص) لقاتلتهم عليه)). و أقره الصحابة على ذلك.

*6

و قد ذهب جمهور الفقهاء إلى أن مانع الزكاة إذا أخذت منه قهرا لا يؤخذ معها من ماله شيء.
و يستدل لقول الجمهور بقول النبي (ص) :(( ليس في المال حق سوى الزكاة)).

*7

فأما من كان خارجا عن قبضة الإمام و منع الزكاة، فعلى الإمام أن يقاتله، لأن الصحابة قاتلوا الممتنعين من أدائها، فإن ظفر به أخذها منه من غير زيادة على قول الجمهور كما تقدم.
و هذا فيمن كان مقرا بوجوب الزكاة، لكن منعها بخلا أو تأولا، ولا يحكم بكفره، و لذا فإن مات في قتاله عليها ورثه المسلمون من أقاربه و صلي عليه.

*8

فأما من منع الذكات منكرا لوجوبها، فإن كان جاهلا و مثله يجهل ذلك لحداثة عهده بالإسلام، أو لأنه نشأ ببادية بعيدة عن الأمصار، أو نحو ذلك، فإنه يعرف وجوبها و لا يحكم بكفره لأنه معذور، و إن كان مسلما ناشئا ببلاد الإسلام بين أهل العلم فيحكم بكفره، و يكون مرتدا، و تجري عليه أحكام المرتد، لكونه أنكر معلوما من الدين بالضرورة.

*9 Shorter Encyclopedia of Islam, Zakat の項