母国の事情と日本の事情

 こういった外国人ムスリムが日本に来た理由は、彼らの母国の事情と日本の事情との両方を見る必要があります。

 日本はバブルとバブル崩壊を経験しましたが、バブル期の日本の労働市場は外国からみても魅力的だったでしょう。日本政府は不法就労者が増えると、特定の国に対する査証免除取決めの一時停止措置などを執りますが、その後はその国から日本に来る人の数は大きく減ります。また、日本政府が外国からの留学生や研修生を積極的に招こうと働きかければ、それに呼応して応募者も増えることになります。

 また、母国の方でも社会や経済の状況が変化すれば、それに応じて日本を含む外国の魅力も変化します。一般にムスリム諸国の政府は、男性労働力を外国に出すことに積極的ですが、それでも、インドネシアから湾岸諸国へ女性労働力が流れるといった現象も見られます。

 つまり、日本の政府や社会の方針・事情と、外国人の母国政府や社会の方針・事情によって、殆どの外国人ムスリム(イスラム教徒)の日本への移住は説明できると思われます。これは社会学などの研究対象ではあっても、イスラームという宗教上の観点から説明がつく現象ではありません。

 世界のどこかにイスラームの大指導者(あるいは組織)が存在し、その大指導者(あるいは組織)の命令によって、各国からイスラーム教徒(ムスリム)がやってくるわけではないのです。殆どの場合においては、極々人間的(あるいは世俗的)な事情がそこには横たわっていると言えるでしょう。

(K.S.)