アブー・ジャアファル(アン=ナッハース)*1は次のように述べている。「『アッラーフ』というクルアーンの章句*2の解釈については、イブン・アッバースから我々に伝えられたものの意味するとおりである。(それは)『(アッラーフとは)あらゆるものがそれをya’lahu|يَأْلَهُ し、あらゆる被造物がそれを崇拝する(ya`budu|يَعْبُدُ)ものである』」。というのも、イブン・アッバースから伝えられる伝承に「アッラーフは全ての被造物に対する神性と被崇拝性の所有者である」とあるからである*3。
某が我々に対しアッラーフという名前の構成の起源が「fa`ala/yaf`aluの活用規則」*4なのかと問えば、アラブの一般的用法ではないものの、類推としてはあり得ると答えられる*5。
仮に我々に対し「神性が被崇拝性であり、アル=イラーフが【崇拝される者】であり、『fa`ala/yaf`aluの活用規則』を起源に有するとの根拠は何か」というものがいたら、次のように答えられる。「アッラーフの御許の(良きこと)を求め、崇拝行為を行っているある男を描写して、『某が(神を)崇拝した(ta’allaha|تألّه)』と言うこと(が正しいとの)判断をアラブの間で妨げるものはない」。(中略)そして、ta’allaha|تألّه が ’alaha/ya’lahu|ألَه/يأله のⅤ形の動名詞(التفعُّل)であり、’alaha|ألَه が「アッラーフを崇拝すること」を意味することに疑いはない*6。
というのも、スフヤーン・ブン・ワキーウがイブン・アッバースから彼が(クルアーン7章127節を「フィルアウンの民の長老達は言った。『ムーサーと彼の民が地で害悪をなし』)「彼(ムーサー)があなたとあなたの’ilāhahを捨てる*7のを捨て置くのか(وَيَذَرَكَ وَإلاهَتَكَ)」と読んだと伝えているからである。彼(イブン・アッバース)は(「あなたの’ilāhah」とは)「あなたの崇拝」を意味すると述べた*8。
そして、イブン・アッバース等の解釈に従えば、al-‘ilāhah が「某がアッラーフを崇拝した(’alaha|ألَه)」の動名詞であることは間違いない*9。
アッラーフの起源はアル=イラーフであり、(イラーフの)語頭のハムザ(’|ء)が落とされ、定冠詞(al-|ال)の子音のlと(イラーフの)lが隣接したために同化し、促音のlとなったのである*10。
以上のように、タバリーの注釈書は、アッラーフという言葉が「崇拝する」という動詞と関係の深いイラーフを起源とするとしています。なお、議論の根拠として引用されている伝承が脆弱なものであるとする校訂者もいるため、その点には注意を払う必要があります。
アッラーフという名前の成立過程に関するタバリーの議論は下記の表に纏められます。
アッラーフという名前の成立過程(タバリー) |
||||
الإله |
→ ハムザを外す |
ال له |
→ 子音のlとlが隣接したために同化し促音となる |
الله |
al-‘ilāh |
al-lāh |
Allāh |
*1 ↑
文法学者、クルアーン注釈家。949年(ヒジュラ歴338年)没。
*2 ↑
クルアーンの章句を意図して「アッラーフの御言葉」という表現が使われている場合には、クルアーンの章句と訳した。
*3 ↑
なお、校訂者のマフムード・ムハンマド・シャーキルはこの伝承の「伝承者の鎖」は脆弱であるとしている。
*4 ↑
アラビア語は語根から様々な言葉が派生する特質を持っている。「fa`ala/yaf`aluの活用規則」は動詞の完了形と未完了形の変化法則の1つで、’alahaに当てはめると、’alaha/ya’lahuとなる。ここでは、アッラーフという言葉が、’alahaという動詞から派生したことの傍証として使われている。
*5 ↑
*6 ↑
لِلَّهِ دَرُّ الغانِـياتِ الـمُدَّةِ سَبَّحْنَ واسْتَرْجَعْنَ مِنْ تألُّهِي يعنـي من تعبدي وطلبـي الله بعمل. ولا شك أن التأله «التفعُّل» من: أَلَهَ يَأْلَهُ، وأن معنى «أَلَه» إذا نُطق به: عَبَد الله. وقد جاء منه مصدر يدل علـى أن العرب قد نطقت منه ب«فَعَل يفعل» بغير زيادة.
*7 ↑
一般的な読誦では、「あなたとあなたの神々を捨てる」である。
*8 ↑
*9 ↑
*10 ↑