第9項:アッラーフという言葉に関する考究と諸課題
第1の課題。
我々の元で選ばれたのは、アッラーフという言葉が至高なるアッラーフの固有名詞であり、決して派生語(普通名詞)ではないという説である。これが、アル=ハリール*1やシーバワイヒ*2、法学者や法理論学者達の多数派の見解であり、様々な根拠がそれを示している*3。
第1の根拠。もし仮にそれ(アッラーフという言葉)が派生語(普通名詞)であったとしたら、その意味は一般的なものとなり、その理解において同位者が生じることを妨げるものではない。(中略)というのも派生語(普通名詞)は、何か曖昧な(一般的な)ものを示すということ以上の役には立たず、この理解はその(言葉)において数多く(の集合)の中に同位者が生じることを妨げないのである*4。
もし仮にそうであったとしたら、「アッラーフ以外に神はない」という我々の言葉は、数多く(の集合)の中に同位者が生じることを禁じる、真の「神の唯一性(タウヒード)」(の表明)ではなくなるのである*5。
第2の根拠。ある特定の本質について、そしてその後にその諸属性について述べたい者は、まずその(本質の)名前を述べ、それからその名前の後に諸属性を述べるのである。例えば、「ザイド|法学者|文法学者|法理論学者(法学者で、文法学者で、法理論学者であるザイド)」と言うように*6。以上を踏まえた上で、我々は次のように言う。
至高なるアッラーフをその神聖なる諸属性と共に述べたい者は誰であれ、まずアッラーフという言葉を述べ、それからその後に賞賛の諸属性を述べるのである。例えば、「アッラーフ|全知者|全能者|比類なき英知の持ち主(全知者であり、全能者であり、比類なき英知の持ち主であるアッラーフ。あるいは、全知の、全能の、比類無き英知あるアッラーフ)」と言うように*7。
そして、この(順序)が逆になることはなく、「全知者|全能者|アッラーフ(全能者であり、アッラーフである全知者。あるいは、全能の、アッラーフ的な、全知者)」とは言わないのである。つまりこれは、アッラーフという言葉が固有名詞であることを示している*8。
仮に「クルアーン第14章の冒頭において、『威力比類ない御方【属格】|称賛されるべき御方【属格】|アッラーフ【属格/主格】|諸天にあるものと地にあるものが属す御方』と述べられているのではないか」と言う者があれば、我々は次のように答えよう。
ここでは2つの読誦法があり、(読誦者の)中にはアッラーフを【主格】で読む者があり、この場合には質問自体が解消される。なぜならば、アッラーフを(主格として読むことによって)主語とした場合には、これをその前方の語の形容詞的修飾語とすることは出来なくなるからである*9。
他方、【属格】で読む者に関して言えば、それは我々の次の言葉と同様となる。「この|家は|所有物です|人徳者の|学者の|ザイドの」。ここで意図されているのは、「ザイド」を「人徳者の学者」の形容詞的修飾語とすることではない。
そうではなく、その意図するところは「この|家は|所有物です|人徳者の|学者の」と言った際に、その「人徳者の学者」が誰であるのか疑念が残ってしまうが、かかる疑念を解消するものとして、そのあとに「ザイド」と言われたのである*10。
第3の根拠。クルアーンに「おまえは【彼】の『同名者』*11を知っているか」(19章65節)と言われており、この章句における(同名者という単語の中にある)「名」とは形容詞*12ではない*13。
*1 ↑ アラビア文法家、バスラ学派。西暦728-786(ヒジュラ歴100-175)。
*2 ↑ アラビア文法家、バスラ学派。西暦?-796(ヒジュラ歴?-180)。
*3 ↑
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*9 ↑
*10 ↑
*11 ↑
ここで「同名者」と訳したسمي|Samīyは、「似た存在」とも、「同じ名に値する者」とも、「子供」とも理解される(マーワルディーの注釈書参照)。
*12 ↑
アラビア語文法学では、形容詞は名詞の一部であり、これがアッラーフという言葉に関する議論を理解する上で重要である。例えばW・ライト著、後藤三男訳、『アラビア語文典』、ごとう書房、1987年、上巻、158-59頁では、名詞(広義)の種類が以下のように分類されている。
名詞(広義)(noun|الاسم)
- ┃
- ┣①実名詞(substantive|الاسم، الموصوف، المنعوت، الظاهر، المظهَر)
- ┣②形容詞(adjective|الصِفة، الوصف، النعت)
- ┣③数詞(numeral|اسم العدد)
- ┣④指示代名詞(demonstrative pronoun|اسم الإشارة)
- ┣⑤関係代名詞(relative pronoun|اسم الموصول، الموصول الاسمي)
- ┗⑥代名詞(pronoun, personal pronoun|الضمير، المضمَر)
*13 ↑