現行のイスラーム金融はイスラーム銀行に代表されます。イスラーム銀行の歴史はそれほど長いものではありません。イスラーム銀行史の簡潔にまとまった記述を以下引用します。
イスラーム銀行については、1950年代のパキスタンと60年代初めのエジプトにおけるミトル・ガス銀行の試みがその発祥とされる。しかし、その実態は銀行というよりも農村志向の貯蓄・投資機関であり、またその試みは成功しなかった。近年では1971年にエジプトで設立されたナーシル社会銀行が最初の無利子銀行と位置づけられている。その後1973年の第1次石油危機に伴う産油国の経済力の高まりは、(中略)1975年のイスラーム開発銀行の設立へと結実した。さらに、石油収入を背景にしてイスラーム銀行はドバイ・イスラーム銀行(UAE1975年)、ファイサル・イスラーム銀行(エジプト1977年)と拡大していく*1。
イスラーム銀行の設立が1970年代に本格化したという事実は、多くの著作で取り上げられています*2。つまり今日イスラーム金融と呼ばれているものは伝統的なイスラームのあり方と言うよりは、複雑に発達した資本主義社会へのイスラーム的対応の試みの1つであるといえます。さらには、イスラーム金融の発展は石油収入の増大によってもたらされたものとも言えます。
イスラーム金融の試みが本格化してからすでに30年以上が経過していますが、イスラーム金融が広く注目を集めるようにになったのは21世紀に入ってからで、その背景にはオイル・ダラーが米国以外の投資先を見つけようとしたことと無縁ではありませんでした。
マレーシアなどはこうした背景を元に積極的にオイル・ダラーを引き受けるべく、イスラーム金融に力を注ぎました。
*1 ↑ 鳥居 高「イスラーム経済」小杉 泰、林 佳世子、東長 靖編『イスラーム世界研究マニュアル』名古屋大学出版会、2008年、336-37頁。
*2 ↑ 例えば、イスラム金融検討会『イスラム金融 仕組みと動向』日本経済新聞出版社、2008、28頁