イスラーム金融を巡る様々な思惑

 イスラーム金融の発展には様々な思惑が動いています。例えば、日本のある金融専門家は各国のイスラーム金融を巡る思惑を率直に描写しています。

 2006年5月中旬。筆者はレバノンのベイルートで開催された(中略)「第3回IFSBサミット」に招かれて出席した。IFSBのリファート・カリーム事務局長を筆者に紹介し、イスラム金融の日本およびアジアにおける発展に尽力するよう筆者に依頼してきたのは駐日クウェート大使(当時)のガッサン・ザワウィであった。湾岸戦争の感謝広告から日本を外したクウェートの駐日大使からの依頼は、何か因縁を感じさせるものであった。(中略)

 会議前日。レバノン中央銀行のリファート・サラメー総裁が30名ほどの少人数の参加者を招待して、歓迎ディナーを開催した。

 「イスラム金融を政策的に振興して、ベイルートをもう一度、中東の金融センターに戻すことが私の悲願だ」。サラメー総裁は(中略)こう語った*1

 引用した事例はレバノンの場合ですが、多くの国々がイスラーム金融への取り組みを行ってきました。

 アジアにおいてイスラーム金融の中心的存在に育ちつつあるのがマレーシアです。マレーシアでの先進的な取り組みはアラブ諸国からの注目を集め、イスラーム金融の分野においてはアラブからの留学先の1つにもなっています。これは、マレーシアが政策としてイスラーム金融に積極的に取り組んだことによります。

 また、イギリスは中東との歴史的な関係が深い国ですが、政策的にイスラーム金融を取り込もうと動いてきたことは有名です。ムスリム人口を多く抱える英国は、ロンドンなどではムスリム向けの食堂を見つけることも容易いことから、イギリスは長く夏の避暑地として人気を集めてきた土地です。

 現在、日本ではイスラーム金融に関する書籍が相次いで出版されていますが、これも日本の銀行などに所属し欧米の大学院等で学んだ金融実務の最先端にいる専門家や銀行家によるものが殆どで、日本の銀行などがイスラーム金融に対して計画的な調査研究を行ってきたことが、その背景にあります。

 先の引用文の著者は「イスラム金融によって、アジアに中東オイルダラーを環流させるために日本の力を活用していく戦略を練り上げる」*2ことを目指すとしており、日本と中東産油国との関係の重層化、特に経済における相互互恵関係が最終的に期待されるのかも知れません。


*1 前田匡史『世界を動かすダイナミズム[詳解]イスラム金融』亜紀書房、2008年、18-20頁

*2 前田匡史『世界を動かすダイナミズム[詳解]イスラム金融』亜紀書房、2008年、206頁