著者
注釈書
- 書名:クルアーン解釈学における伝承(リワーヤ)と論考(ディラーヤ)の2つの学問の総合、全能者の勝利*9
- 概要:書名にもあるとおり、クルアーン解釈に関する2つの手法、すなわち解釈伝承(リワーヤ)と理知的・合理的見解(ディラーヤ)とを併用した注釈書である*10。シャウカーニーは自身の執筆の動機を概要以下のように説明している。
大多数の注釈家達は伝承派と見解派に別れているが、伝承と見解はそれぞれ単独では完全ではない。
① クルアーン解釈に関する預言者ムハンマドに遡る確実なハディース(言行録)が存在すれば、それをクルアーン解釈の根拠とすることで異論はない。しかしながら、この方法が有効なのはクルアーンの章句のごく一部である。
② クルアーン解釈に関する教友達の発言のうち、神意によってアラビア語の言語上の意味を離れ特別な意味を持った言葉*11(=専門用語)に関連する発言であれば、優先的な根拠となる。
③ クルアーン解釈に関する教友達の発言のうち、上記②に該当しなければ、信頼の置けるアラビア語話者の(アラビア語の意味に関する)発言として扱われる。
④ 上記③の発言が疑いを入れない通説に背馳する場合には根拠として採用されず、後続世代やそれ以外の学匠達の見解が優先される。
⑤ 教友や初期世代はクルアーンの文章構成が要請する言語上の意味の一側面のみに言及することが多いが、それはアラビア語学上可能とされる他の意味を無視して良いことを意味しないと言うことは広く知られている。アリー(預言者ムハンマドの娘婿)がイブン・アッバースをハワーリジュ派に使わしたとき「彼らの許に赴きなさい。ただし、彼らと論争するときには多様な意味を持つクルアーンではなくハディースを用いなさい」と言われ、イブン・アッバースが「しかし、私の方が彼らより神の書に通じております」と述べたのに対し、「それはそのとおりであるが、クルアーンは多様な意味を備えているのだ」と答えられた。
⑥ また、クルアーンの章句の中には、初期世代に遡る確実な解釈を持たないものもあり、伝承経路が脆弱であったり、(教友を除く)伝承源の信頼性が脆弱であったりする場合もある。
従って、解釈伝承(リワーヤ)と理知的・合理的見解(ディラーヤ)とを併用する必要がある*12。 - 構成:章の名前と意味、章の美質を述べた後、各節の注釈に入る。語義、文法、修辞上の意味を明らかにし、伝承経路の脆弱な釈義伝承を引用する場合にはその旨を注記している*13。
(K.S.)
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現代アラブの研究書の中には、シャウカーニーの信奉する信仰箇条がスンナ派のそれと大差ないとするものもある。
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ヒジュラとは「イエメンのザイド派地域にみられる一種のアジール(聖域)。おもなヒジュラはサイイド、都市、週市、一部の部族長。」『岩波イスラーム辞典』ヒジュラの項目より。
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ファトワーに関し、岩波イスラーム辞典は法学裁定、平凡社新イスラーム辞典は法学意見ないし鑑定としている。
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批判的文脈では盲従とも訳せる。
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例えば、ハッジの原義は「行く」であり、「某が我々の方にハッジした」と言えば「某が我々の方へ来た」という意味になるが、現在ではハッジという言葉は専門用語として「メッカ(マッカ)への大巡礼を行う」という意味で用いられている。
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