この世界に現存するすべてのものは移ろいゆくものです。移ろいゆくものは、始まりがあって終わりがあります。誕生と終焉があるわけです。星の一生のように、始まってから終わるまでに極めて長い時間がかかるものもあれば、蚊の一生のように約2週間と短いものもあります。いずれにせよ、始まりがあるものにはいつかは必ず終わりがあるわけですが、このように始まりと終わりがあるもののことを「生起するもの」と呼びます。
先ほど「すべての生起するものに関し、その生起には原因がある」という表現を引きましたが、この表現のなかで鍵となるのは「すべての生起するもの」という部分です。すべての移ろいゆくもの、と言い換えても良いでしょう。すべての移ろいゆくものにとっては、その誕生に原因がある、ということです。星の誕生にも原因があり、蚊の誕生にも原因があるというのは私たちにとっても馴染み深い考えです。
これを逆に考えれば、もし仮に「<生起するもの>ではない存在」あるいは「移ろいゆかない特別な存在」があれば、それには原因は必要ではないということになります。つまり、この世界に現存するすべてのものとは全く違った「移ろいゆかない特別な存在」があれば、そのような特別な存在に対しては「移ろいゆく存在」にとっての法則は及ばない、ということになります。
(K.S.)