以上のような議論を経て、鈴木董は「文明」を文字で区切ることの有用性を指摘します。これによって各地域の「文明」区分はかなり外形的に行えるようになり、明瞭なものとなります。
文字は、文明と文化についての情報を、蓄積し、あるいは伝達する手段である。(中略)文字の使用をもって初めて、文明と文化の半恒久的定着化が可能となるのである。その意味で、文化の拡がりは、有文字文化においては、必ず文字の拡がりと深くかかわりをもつ*1。
そして、鈴木董は文字圏を以下のように分類します。
アジア、アフリカ、ヨーロッパの三大陸、いわゆる「旧大陸」の文字圏*2 | |||||
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文字圏 | 地域 | 宗教圏 | エリートが共有した文明語・文化語 | 言語の例 | 対立の例 |
漢字圏 | 東アジア中心 | 東アジア儒教・仏教世界 | 漢文 | 中国語 韓国・朝鮮語 日本語 ヴェトナム語(今はラテン文字化) |
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ナーガリー文字(梵字)圏 | 東南アジアから南アジア | 南アジア・ヒンドゥー・仏教世界 | サンスクリット | インド 対 パキスタン |
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アラビア文字圏 | 新疆ウイグル自治区・パキスタンからモロッコまで | イスラム世界 | アラビア語 | アラビア語(セム語族) ペルシア語系諸語(インド・ヨーロッパ語族) トルコ系諸言語(ウラル・アルタイ語族) |
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ギリシア・キリル文字圏 | ロシアからギリシアまで | 東欧正教世界 | ギリシア語 | セルビア 対 クロアティア |
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ラテン文字圏 | 西端 | 西欧カトリック・プロテスタント世界 | ラテン語 |
(K.S.)
*1 ↑ 鈴木 董『オスマン帝国の解体』ちくま新書、2000年、20頁
*2 ↑ 鈴木 董『オスマン帝国の解体』ちくま新書、2000年、23-25頁をもとに筆者作成