ザカートの日本語訳

 ザカートというのはイスラームの六信五行の一つに数えられる重要な要素ですが、なかなか日本語に適切な訳語がないようです。例えば、布施という言葉には、「①人に物を施しめぐむこと。②僧に施し与える金銭または品物」*1という意味があります。イスラームのザカートは①には該当しても、②に該当しません。その理由は、「僧」にちょうど当てはまるような概念がイスラーム(スンナ派)には見あたらないからです。

 ザカートというアラビア語の言葉は、日本語では「喜捨」*2、「定めの喜捨」*3、「公共福祉税」*4、「救貧税」*5、「浄財」*6等と訳されています。また、適当な訳語がないとの理由からそのまま「ザカート」という言葉を使う例もあります*7

 いずれにせよ、日本語の布施とは少し違う考えだととりあえずは理解しておきます。


*1 岩波書店 広辞苑 第六版 DVD-ROM版

2 『岩波イスラーム事典』、『新イスラム事典』(平凡社)

3 東長 靖『イスラームのとらえ方』山川出版社、1996年、20頁に、他者による訳語として紹介されています。

4 東長 靖『イスラームのとらえ方』山川出版社、1996年、20頁に、「しいて訳せば公共福祉税とでもなろうか」と述べられています。

5 『新イスラム事典』において、「欧米の学者は多くこれを救貧税と呼ぶ」として紹介されています。

6 中田 考『イスラーム法の存立構造』ナカニシヤ出版、2003年、427頁

7 例えば、東長 靖『イスラームのとらえ方』山川出版社、1996年は、この立場に沿って書かれています