基本は合法

 イスラーム法学書の古典で、すでに日本語に訳されているものがあります。中田考、松山洋平による一連の作品がそれで、現在までに3巻まで出版されています*1。このうち、食物規定に関する部分は次のようになっています。

 食物

 それにおける原則は合法である。それ故、無害で清浄な穀粒や果実のような全てのものは許されているが、死肉や血のような不浄(物)は許されず、毒物などのような有害物も許されない。陸棲動物は合法であるが、以下のものは例外である(禁じられる)。家畜のロバ、そしてハイエナを除く襲撃用の犬歯を有するライオン、豹、狼、象、山猫、犬、豚、ジャッカル・イタチ、猫(sinnawr)、ネコイタチ、猿、熊など(……後略)*2

 上の中で「食物規定の原則は合法である」というのが大変重要な文章です。原則的には何を食べても良い、というのがイスラームの食物規定です。イスラームで食べることが禁じられるものは、例外的な存在です。

 クルアーン(コーラン)第2章172節にも

 信じる者たちよ、われらがおまえたちに糧として与えたものから良いものを食べ、アッラーに感謝せよ*3

とあり、食物を神からの恵みとしてありがたく頂戴するというのがイスラームの教えるところです。預言者ムハンマド自身も肉を食べましたし、妻帯もしました。則(のり)を超えることなく楽しむ、というのがイスラームの教えの一つです。

 上に挙げた引用は、イスラームのスンナ派における法学派の一つであるハンバリー派の法学書の内容です。スンナ派には現在に伝わる法学派として、ハナフィー派、マーリキー派、シャーフィイー派、ハンバリー派が存在します。

 何が許されるのかについては、法学派間での相違もあり、例えば家畜のロバに関してはシャーフィイー派とハンバリー派がこれを禁止し、マーリキー派において優勢な見解もこれを禁止します。ハナフィー派は禁止に近い忌避とします。マーリキー派の一部は家畜のロバを忌避とします。これらに加えて、許されているという学説もあります*4。

 学問上の細かい相違はあるのですが、現実には家畜のロバを食べる人はまずいないため、実際の運用上ではあまり相違がないとも言えます。

(K.S.)


*1 中田 考『イスラーム法の存立構造 ハンバリー派フィクフ神事編』 ナカニシヤ出版、2003年

  中田 考『イスラーム私法・公法概説 財産法編』 日本サウディアラビア協会、2007年

  松山 洋平著、中田 考監修『イスラーム私法・公法概説 公法編』 日本サウディアラビア協会、2008年

*2 松山 洋平著、中田 考監修『イスラーム私法・公法概説 公法編』 日本サウディアラビア協会、2008年、163頁

منصور بن يونس البهوتي، زاد المستقنع في اختصار المقنع، بيروت، 1994، ص 112

الأصل فيها الحل، فيباح كل طاهر لا مضرة فيه من حب و ثمر و غيرهما، و لا يحل نجس كالميتة و الدم، و لا ما فيه مضرة كالسم و نحوه. و حيوانات البر مباحة إلا الحمر الإنسية و ما له ناب يفترس به – غير الضبع – كالأسد و النمر و ذئب و الفيل و الفهد و الكلب و الخنزير و ابن آوى و ابن عرس و السنور و النمس و القرد و الدب، و ما له مخلب من الطير يصيد به كالعقاب و البازي و الصقر و الشاهين و الباشق والحدأة و البومة، و ما يأكل الجيف كالنسر و الرخم و اللقلق و العقعق والغراب الأبقع و الغداف – و هو أسود صغير أغبر – والغراب الأسود الكبير. و ما يستخبث كالقنفذ و النيص والفأرة و الحية و الحشرات كلها و الوطواط و ما تولد من مأكول و غيره كالبغل.

*3

البقرة، 172. يَا أَيُّهَا الَّذِينَ آمَنُوا كُلُوا مِنْ طَيِّبَاتِ مَا رَزَقْنَاكُمْ وَاشْكُرُوا لِلَّهِ إِنْ كُنْتُمْ إِيَّاهُ

4الموسوعة الفقهية الكويتية، ج5، ص 139-140

ذهب الشافعية و الحنابلة – و هو القول الراجح للمالكية – إلى حرمة أكله. و نحوه مذهب الحنفية حيث عبروا بالكراهة التحريمية التي تقتضي المنع، و سواء أبقي على أهليته أم توحش. ……. و القول الثاني للمالكية: أنه يؤكل مع الكراهة أي التنزيهية…… و قد نقل ابن قدامة: أن الإمام أحمد قال: إن خمسة عشر من أصحاب النبي (ص) كرهوا الحمر الأهلية، و أن ابن عبد البر قال: لا خلاف بين علماء المسلمين اليوم في تحريمها، و أن ابن عباس و عائشة كانا يقولان بظاهر قوله تعالى: (قُلْ لَا أَجِدُ فِي مَا أُوحِيَ إِلَيَّ مُحَرَّمًا عَلَى طَاعِمٍ يَطْعَمُهُ إِلَّا أَنْ يَكُونَ مَيْتَةً أَوْ دَمًا مَسْفُوحًا أَوْ لَحْمَ خِنْزِيرٍ). تلاها ابن عباس و قال: ما خلا هذا فهو حلال، و أن عكرمة و أبا وائل لم يريا بأكل الحمر بأسا.