そもそもイスラーム金融が想定する利子とは何でしょうか。「利子」とはアラビア語でリバー(ربا)と呼ばれているものの訳語です。このリバーには大まかに分けて2種類あります。以下、リバーについての簡潔な説明(ハンバリー派)を引用します。
(1)総論
リバー(不等価交換)とは体積、重量で計量される同種のもの同士を、異なる価で売買することであり、イスラーム法はこれを厳禁する。リバー(不等価交換)には①「上乗せのリバー」と②「後払いのリバー」の2種類がある。俗に「利息」と訳されるのは②「後払いのリバー」である。(後略)
(2)上乗せのリバー
体積、重量で計量される同種のものは、同量でその場で交換されなければならない。不等量の交換は上乗せのリバーとして禁じられる。
(3)後払いのリバー
体積、重量で計量される同種のものは、同量でその場で交換されなければならないが、後払いでより多い量を得ることでの交換が、後払いのリバーで禁じられる。また後払いであっても、等量、あるいはより少ない量を得る交換であれば許される*1。
つまり、リバーとは不等価交換を意味します。これがさらに、上乗せのリバーと後払いのリバーに分かれます。
これら2種類あるリバーのうち、後払いのリバー(ربا النسيئة)*2と呼ばれるのが日本語の利子に相当します。この後払いのリバーは、イスラーム以前のアラブで行われていたもので「無明時代*3のリバー(ربا الجاهلية)」とも「明瞭なリバー(الربا الجلي)」とも呼ばれます。イスラーム以前の利子(後払いのリバー)については、
例えば債権(の支払い期限)を遅らせる際に債権額を増加させ、遅らせる毎に債権額を増加させるので、ついには100が100万にもなってしまう*4。
といった表現が残っています。
このため、後払いのリバー(利子)はたとえ軽微であっても全面的に禁止されました。クルアーンではこれを禁じる章句は数多いのですが、例えば2章275-279節には以下のとおり禁止の命令が纏まって存在します。
利子を貪る者は、シャイターン(悪魔)に倒された者が気が触れて立つようにしか立ち上がれない。それは彼らが、「商売も利子のようなものにすぎない」と言ったからである。アッラーは商売を許し、利子を禁じ給うた。主からの警告が彼を訪れ、止めた者、彼が過去に取ったものは彼のものであり、その件はアッラーに委ねられる。だが、繰り返す者、そういう輩は獄火の輩で、彼らはそこに永遠に住まう。アッラーは利子を消し、喜捨は増やし給う。アッラーは罪深い不信仰者はことごとく愛し給わない。信仰し、善行をなし、礼拝を守り、喜捨を払う者、彼らには彼らの主の御許に彼らの報酬がある。彼らに恐怖はなく、彼らは悲しむことはない。信仰する者たちよ、アッラーを畏れ身を守り、利子の残りを放棄せよ、おまえたちが信仰者であるならば。おまえたちが行わないならば、アッラーと彼の使徒からの戦いがあると知れ。お前が悔いて戻れば、おまえたちの財産の元本はおまえたちのものである。おまえたちは不正をなすことはなく、不正を受けることもない*5。
これに対し、上乗せのリバー*6(ربا الفضل)とは売買のリバー(ربا البيع)とも呼ばれ、例えば銀1キロを銀2キロと取引したり、10リットルの小麦を20リットルの小麦と取引したりすることを言います。これは、「明瞭なリバー」に対して「隠れたリバー」とも呼ばれます。
*1 ↑ 中田 考『イスラーム私法・公法概説 財産法編』 日本サウディアラビア協会、2007年、19-20頁
*2 ↑ あるいは、「期限のリバー」とも訳されています。柳橋 博之『イスラーム財産法の成立と変容』創文社、1998年参照。
*3 ↑ イスラーム以前の状態をアラビア語ではジャーヒリーヤと呼びます。これは、無名状態・無名時代と訳せるような言葉です。
*4 ↑
*5 ↑
邦訳は『タフスィール・ジャラーライン』より。
*6 ↑ あるいは、「剰余のリバー」とも訳されています。柳橋 博之『イスラーム財産法の成立と変容』創文社、1998年参照。