全ての職業は等価

 イスラームにはある特定の職業を無条件に優れたものとする発想法は殆どありません。

 イスラームの行為規範を取り扱う学問であるフィクフ(イスラーム法学)では、例えばアッ=サラフスィーという学者(アーリム)は以下のように述べています。

 生業(المكاسب)には4種類ある。賃約*1、商い、農作、製作である。大多数の法学者の見解では、これらの全ては一様に自由で許されている*2

 自由で許されているというのは、少し説明がいります。イスラーム法学では、行為を5つの範疇に分類します。

 (1)禁止:行ってはならない。行えば罪となる。

 (2)忌避:行っても罪とはならないが、避ければ神からの報酬が得られる。

 (3)自由:上記(1)(2)と下記(4)(5)に当てはまらないもの。

 (4)推奨:行わなくても罪とならないが、行えば神からの報酬が得られる。

 (5)義務:行わなくてはならない。行わなければ罪となる。

 したがって、通常は、盗賊等の犯罪行為を除き、どの職業も等価でありどれを選んでも良いことになります。もちろん、実際には花形の職業が存在するのは当然ですが、人気のある職種は時代や社会の変遷と共に移り変わるものであり、必ずしも教義に基づくものではありません。

(K.S.)


*1 賃貸借と雇用のこと。イジャーラ。「イスラームでは、物の使用収益と人間の労務を同一の用益権(マンファア)として理解するので、賃貸借と雇用は、賃約(イジャーラ)という単一の累計として論じられる。」中田 考『イスラーム私法・公法概説 財産法編』 日本サウディアラビア協会、2007年、11頁。

 なお、イジャーラの邦訳として使われている賃約という言葉は、元々はローマ法の用語のようです。リッツ・シュルツ、佐藤篤士監訳、「古典期ローマ私法」(v)(第V部 債権債務関係の法)早稲田大学ローマ法研究会 http://hdl.handle.net/2065/2670参照。

*2

السرخسي، المبسوط، بيروت، ج30 ، ص258-259.

المكاسب أربعة الاجارة و التجارة و الزراعة و الصناعة و كل ذلك في الاباحة سواء عند جمهور الفقهاء رحمهم الله.