人々の役に立つ人は最良の人

 預言者ムハンマドの言行録(ハディース)に次のようなものがあります。

 最良の人とは、人々にとって最も有益な人である。

 このハディースの注釈書は以下のとおり述べています。

 最良の人とは、その地位や財物による人々への心づくしにおいて最も彼らに益をもたらす人のことである。というのも、人々は神の僕であるからであり、人々の中で最も神の目に好ましい者は、神に依存する存在に最も益をもたらす者なのである。

 つまり神の元で最も高貴な者は、人々に対し与える恩恵や宗教上もしくは現世上のことでの怨恨を人々から取り除くことによって、最も益をもたらした者なのである。そして、宗教上の益は、最も評価が高く、最も益が継続的なのである。

 一部の学者は、このハディースが帰結するところは、公正なイマーム(※ここでは政治的指導者つまりカリフのこと)は預言者達の次に最良の人々であるとしている。というのも、(イマームが司る)諸事項はその益が広範でその実施が重大であるが、彼以外にそれを行う者はいなく、彼によって(神の)僕達や諸国が有意義な存在となるからである。そして彼は、人々を正し真実へと呼びかけ彼らの宗教を実施し人々の必要を満たすことに於いて預言者性の後継として務め、彼無しには知識も行為も成り立たないからである*1

 ここには、人々の役に立つために努力する人、人々のために重責を負う人が最良の人であるとの一般原則が記されています。

 従って、この原則に従えば、本来ある特定の職業が無限定的に優れているとはされないものの、人々の役に立つ職業が良い職業と判断される、という言い方も出来るようです。

 たとえば、アン=ナワウィーという学者は、農作と製作は手仕事であり優れているとした上で、農作はその益が人間とそれ以外(つまり動物)に亘るほど幅広く必要性がよりいっそう一般的であることから、農作が製作よりも優れているとしています*2。アン=ナワウィーの出身地であるナワーはシリアの南部に位置し、比較的降水に恵まれれるため今でも農業で有名です。アン=ナワウィーも子供の頃、動物が農作物を食べにくるのをしばしば目にしただろうと思うのですが、その経験が農業の重要性に目を向けさせたのかもしれません。

(K.S.)


*1

المناوي، فيض القدير في شرح الجامع الصغير للسيوطي، بيروت، 1972، ج 3 ، ص 481.
4044 – خير الناس انفعهم للناس – القضاعي عن جابر – (ح) يعني حسن.
(خير الناس انفعهم للناس) بالاحسان اليهم بماله و حاهه فانهم عباد الله و أحبهم اليه و أنفعهم لعياله أي أشرفهم عنده أكثرهم نفعا للناس بنعمة يُسديها أو نَقمة يَزويها عنهم دينا أو دنيا و منافع الدين أشرف قدراً و أبقى نفعا قال بعضهم هذا يفيد أن الإمام العادل خير الناس أي بعد الأنبياء لأن الأمور التي يعم نفعها و يعظم وقعها لا يقوم بها غيره و به نفع العباد و البلاد و هو القائم بخلافة النبوة في إصلاح الخلق و دعائهم إلى الحق و إقامة دينهم و تقويم أودهم و لو لاه لم يكن علم و لا عمل.

*2

النووي، روضة الطالبين، بيروت، 2003، ج2 ، ص548.
قلت: في ((صحيح البخاري)) عن النبي (ص) قال: ((ما أكل أحد طعاما قط، خيرا من أن يأكل من عمل يده، وإن نبي الله داود (ص)، كان يأكل من عمل يده)). فهذا صريح في ترجيح الزراعة، والصنعة، لكونهما من عمل يده، لكن الزراعة أفضلهما، لعموم النفع بها للآدمي وغيره، وعموم الحاجة إليها. والله أعلم.