【岩波版】
さもなくば自業自得で禍に見舞われても、彼らは、「主よ、何とて我らに使徒をお遣わしにならなかったのでございますか。我らとて貴方様のお徴に従い、信仰ぶかい人間になりましたものを」などと言い立てるにきまっておる。
【中公版】
彼らの手が行った罪のために災厄がふりかかったとき、「主よ、あなたが使徒をわれわれのところへ遣わしてくださっていれば、きっと、あなたのみしるしに従い、信仰していたでしょうに」と言わなかったなら、われらが汝を遣わすまでのことはなかったのだ。
【ムスリム協会版】
もしそうしなかったならば、かれらの手が先になした(行いの)ため、かれらには災厄が襲いかかるであろう。その時になって、かれらは言うであろう。「主よ、なぜあなたは、使徒をわたしたちに御遣わしにならなかったのか。わたしたちはあなたの印に従い、信心深い者になったものを。」
【黎明版】
もし、彼らの手が前もってなしたことゆえに災厄が彼らを襲い、そこで、彼らが、「われらが主よ、あなたがわれらの許に使徒を遣わし給わなかったのは何故か。そうすれば、われらはあなたの諸々の徴に従い、信仰者たち(の一部)になったものを」と言わなければ(※脚注)。
※彼らがこの様に言い逃れないのであれば、彼らに使徒たちを遣わすことはなかったであろう。
【比較】
本節は仮定表現の条件のみが記され結果が省略されている、すなわち、「もし○○であったならば、●●であったろうに」の前段部分のみが記され、「●●であったろうに」の後段が省略されている。この様に、構文解析書は分析する*6。この理解に従えば、【中公版】と【黎明版】が文法に忠実な解釈を行っていると見なされる。
【中公版】では、クルアーン本文では省略されている「われらが汝を遣わすまでのことはなかったのだ」を本文の一部として訳出している。これは、本稿で参照した全ての構文解析書は同趣旨の表現が省略されていると記しているので、いわば自明のこととして訳したと推察される。他方、【黎明版】ではあくまでもアラビア語本文に忠実に訳した上で、脚注部分において省略部分を補っている。
さて、【岩波版】と【ムスリム協会版】であるが、どちらも「さもなくば」、「もしそうしなかったならば」と前節を受けるような形で訳出しているが、【岩波版】が主に依拠したとされるバイダーウィーの注釈書でも先に述べた構文解析書と同様の解釈が行われているほか*7、タバリーの注釈書*8、ラーズィーの注釈書*9、クルトゥビーの注釈書*10、イブン・カスィールの注釈書*11などの主要な注釈書にも両訳を支持するような記述は見つからなかった。従って、両訳は独創性の高いものとなっている。ただし、43節から直前の46節までが使徒の派遣に関する啓示であるために、結果としては違和感を感じさせない訳文となっている。
*6 ↑ 参照した構文解析書は以下のとおり。al-Samīn al-ḥalabī, al-Durr al-Maṣūn fī ‘Ulūm al-Kitāb al-Maknūn, Damascus, n.d.、Muḥyī al-Dīn al-Darwīsh, I‘rāb al-Qur’ān al-Karīm wa Bayānu-hu, Damascus,1999、Maḥmūd Ṣāfī, al-Jadwal fī I‘rāb al-Qur’ān wa Ṣarf-hu wa Bayānu-hu, Damascus, 1995、Bahjat ‘Abd al-Wāḥid, al-I‘rāb al-Mufaṣṣal li-Kitāb Allāh al-Murattal, n.p., n.d.
و”فَيَقولوا” عطفٌ [على] “تُصيبَهم”، و”لولا” الثانيةُ تحضيضٌ و”فنَتَّبِعَ” جوابُه، فلذلك نُصِبَ بإضمار “أَنْ”. قال الزمخشري: “فإن قلتَ: كيف استقامَ هذا المعنى، وقد جُعِلَتْ العقوبةُ هي السببية لا القولُ؛ لدخولِ حرفِ الامتناعِ عليه دونَه؟ قلت: القولُ هو المقصودُ بأَنْ يكونَ سبباً للإِرسال ولكنَّ العقوبةَ لَمَّا كانت هي السببَ للقولِ، وكان وجودُه بوجودِها جُعِلَتِ العقوبةُ كأنها سببٌ للإِرسالِ بواسطة القولِ فَأُدْخلَتْ عليها “لولا”. وجيْءَ بالقول معطوفاً عليها بالفاءِ المُعْطِيَةِ معنى السببية، ويَؤُول معناه إلى قولِك: “ولولا قولُهم هذا إذا أصابَتْهم مصيبةٌ لَمَا أَرْسَلْنا” ولكن اخْتِيْرَتْ هذه الطريقةُ لنُكتةٍ: وهي أنهم لو لم يُعاقَبوا مثلاً على كفرِهم وقد عاينوا ما أُلْجِئوا به إلى العلمِ اليقين لم يقولوا: لولا أَرْسَلْتَ إلينا رسولاً، وإنما السببُ في قولِهم هذا هو العقابُ لا غيرَ، لا التأسُّفُ على ما فاتهم من الإِيمان بخالِقهم”. اهــ. الدر المصون.
والمصدر المؤوّل (أن تصيبهم) في محلّ رفع مبتدأ خبره محذوف تقديره موجود.
(ربّنا) منادى مضاف منصوب (لولا) حرف تحضيض (إلينا) متعلّق ب (أرسلت)، الفاء فاء السببيّة (نتّبع) مضارع منصوب بأن مضمرة بعد الفاء، والفاعل نحن (نكون) ناقص منصوب معطوف على (نتّبع) بالواو (من المؤمنين) خبر نكون.
والمصدر المؤوّل (أن نتّبع) في محلّ رفع معطوف على مصدر مأخوذ من التحضيض السابق أي: هلّا ثمة إرسال فاتّباع الآيات…
وجملة: (لولا) الإصابة لا محلّ لها معطوفة على جملة ما كنت… وجواب الشرط محذوف تقديره ما أرسلنا رسلا إليهم. اهــــ. الجدول في إعراب القرآن.
بهجت عبد الواحد صالح، الإعراب المفصل لكتاب الله المرتل، n.p.، n.d.، ج8، ص411.
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*8 ↑:
*9 ↑
*10 ↑
*11 ↑