以上、ヨルダンの王立アール・アル=バイト・イスラーム思想研究所の運営するaltafsir.comが選出した最重要古典クルアーン注釈書の該当部分を訳出してみました。もちろん、これら8冊の解釈書が全ての重要なクルアーン注釈書を網羅しているとは限らないものの、古典的クルアーン解釈の大枠を理解するには十分であろうと思われます。
これら8冊の解釈書の2つの生と死に関する理解を以下に整理しました。
1.無生物の状態、或いは無の状態を死の本義として理解する解釈。この説では、霊魂の不在、無生物、感覚の不在、無を死であるとします。死という言葉が無生物などに対する本義として使われています。
(1)生と死をそれぞれ2回とする解釈。
- 第1の死=精子の状態、無の状態
- 第1の生=現世での生、霊魂が吹き込まれた状態
- 第2の死=現世における死
- 第2の生=復活の日の生
この説を採る解釈は、タバリー[1]【3】、ザマフシャリー[1]【1】①、クルトゥビー[1]【1】、クルトゥビー[2]【1】、イブン・カスィール[1]【1】③(有力説)、バイダーウィー[1]①、ジャラーライン[1]、ジャラーライン[2]、シャウカーニー[1]【1】、シャウカーニー[2]【1】(有力説)です。
(2)生と死の回数をそれぞれ3回とする解釈
- 第1の死=土や精子という無生物の状態
- 第1の生=現世での生
- 第2の死=現世での死
- 第2の生=墓中での生(ただし、永遠の生ではない)
- (第3の死=墓中での死)
- 第3の生=復活の日の生
この説を採る解釈はザマフシャリー[1]【1】②、ラーズィー[1]②、クルトゥビー[1]【4】①、バイダーウィー[1]②です。
2.「何ものでもない状態」、「取るに足らない存在」、「言及されない存在」、「記憶されない存在」、無生物の状態を死の転義として理解する解釈。
(1)生と死をそれぞれ2回とする解釈。
- 第1の死=現世に生を受ける前の「取るに足らない存在」。
- 第1の生=神によって現世に生を受け、人として知られるようになった状態。
- 第2の死=現世での死以降の「取るに足らない存在」。
- 第2の生=復活の日に蘇らされ、人として知られるようになった状態。
この説を採るのはタバリー[1]【1】(有力説)、クルトゥビー[1]【5】、イブン・カスィール[1]【1】②(有力説)です。
(2)生と死をそれぞれ3回とする解釈。
- 第1の死=土や精子という無生物の状態
- 第1の生=現世での生
- 第2の死=現世での死
- 第2の生=墓中での生(ただし、永遠の生ではない)
- (第3の死=墓中での死)
- 第3の生=復活の日の生
この説を採るのはラーズィー[1]①(有力説)です。
3.死を霊魂の肉体からの離脱と理解する解釈。つまり、生物から霊魂が離脱した状態を死とする理解です。
(1)生と死をそれぞれ2回とする解釈。
- 第1の死=現世での死
- 第2の生=墓中での復活
- 第2の死=墓中での死
- 第2の生=来世での復活
この説を採るのはタバリー[1]【2】(薄弱説)、クルトゥビー[2]【2】、シャウカーニー[2]【2】、イブン・カスィール[1]【2】(薄弱説)です。
(2)生を3回、死を2回とする解釈。
- 第1の生=現世での生
- 第1の死=現世での死
- 第2の生=墓中での生
- 第2の死=墓中での死
- 第3の生=復活の日の生
この説を採るのはラーズィー[2]です。
4.「原初の契約」を含む解釈
(1)生と死の回数をそれぞれ3回とする解釈
- 第1の死=「原初の契約」以前の状態
- 第1の生=「原初の契約」の際の生
- 第2の死=「原初の契約」の後の死
- 第2の生=現世における生
- 第3の死=現世での死
- 第3の生=来世での復活
この説を採るのは、タバリー[1]【4】(薄弱説)、イブン・カスィール[1]【3】(薄弱説)、シャウカーニー[1]【2】です。
(2)生と死の回数を3回以上とする解釈
- 第1の生=アーダム創造以前に、塵のようなものとしての人間の生
- 第1の死=塵のようなものとしての人間の死
- 第2の死=アーダムの腰の中での死の状態
- 第2の生=「原初の契約」の際の生
- 第3の死=精子の状態
- 第3の生=現世での生
- 第4の死=現世での死
- 第4の生=墓中での生
- 第5の死=墓中での死
- 第5の生=復活の日の生
- 第6の死=火獄に入ったムスリムの罪人の死
- 第6の生=同罪人が許されて楽園に入れられた後の生
この説を採るのはクルトゥビー[1]【4】、クルトゥビー[2]【3】、シャウカーニー[1]【3】、シャウカーニー[2]【3】です。
5.体の一部分等が霊魂ある本体から離別することを死とする解釈。
- 第1の死=精子の肉体からの分離
- 第1の生=現世へ生を受ける
- 第2の死=現世での死
- 第2の生=来世での復活
この説を採るのはタバリー[1]【5】です。
6.「原初の契約」以降、生が連続するとした解釈。
- 第1の死=アーダム(アダム)の腰の中での状態
- 第1の生=「原初の契約」の際の生
- 第2の死=現世での死。
- 第2の生=復活の日の生
この説を採るのはクルトゥビー[1]【3】です。
7.墓中での生が現世での生に含まれるとする解釈。
- 第1の死=(特に説明なし。生まれる前の状態か?)
- 第1の生=現世での生。
┗墓中での生を含む。 - 第2の死=現世での死。
┗墓中での死を含む。 - 第2の生=復活の日の生
この説を採るのはクルトゥビー[1]【2】で、また、ラーズィー[2]《答3》②に部分的に近似しています。