クルアーン(コーラン)には2度の死という表現があります。この表現にはイスラームの死生観が込められています。また、クルアーンには一読しただけでは理解が難しい表現が散見されますが、これもその1つです。2度の死が言及されている箇所は、以下の2章句となります。
●どうしておまえたちにアッラーを否定できようか(未完了形*1)。御前達は死んでいたが、彼が御前達を生かした(完了形*2)。それから彼は御前達を死なせ、それから彼は御前達を生かし、それから御前達は彼の許に戻されるのである(未完了形)〔2:28〕*3。
●彼らは言った、「我らが主よ、あなたは我らを2度死なせ、2度生かし、そして我らは我らの罪を認めました(完了形)。それで、脱出への道はあるのですか(名詞文)」〔40:11〕*4。
40章11節は言うまでもなく、2章28節からも2回の死と2回の生を導き出すことが可能です。例えば、
第1の死:御前達は死んでいたが、
第1の生:彼が御前達を生かした。
第2の死:彼は御前達を死なせ、
第2の生:それから彼は御前達を生かし
といった解釈が可能です。
ヨルダンの王立アール・アル=バイト・イスラーム思想研究所の運営するaltafsir.comでは最重要古典クルアーン注釈書として、
1.アッ=タバリーの注釈書、
2.アッ=ザマフシャリーの注釈書、
3.アッ=ラーズィーの注釈書、
4.アル=クルトゥビーの注釈書、
5.アル=バイダーウィーの注釈書、
6.イブン・カスィールの注釈書、
7.ジャラーラインの(アル=マハッリーとアッ=スユーティーの)注釈書、
8.アッ=シャウカーニーの注釈書を挙げています。
以下、これら最重要古典クルアーン注釈書の、該当部分を必要に応じ再構成しながら適宜訳出してゆきます5。各注釈書の概要については別記事をご参照ください。また、訳者が便宜上付した記号として、関連する章節を表す[1](2章28節)、[2](40章11節)、見解を整理する【1】、①があります。一般的には諸見解が羅列される場合には有力なものから降順に並べられるため、番号が若い方が有力説となる傾向があります。なお、《》内の表題は原著にあるもので、〔1:1〕はクルアーン1章1節を意味します。
1.アッ=タバリーの注釈書(جامع البيان في تفسير القرآن/ الطبري)(要旨)
2.アッ=ザマフシャリーの注釈書(الكشاف/ الزمخشري)(要旨)
3.アッ=ラーズィーの注釈書(مفاتيح الغيب، التفسير الكبير/ الرازي)(要旨)
4.アル=クルトゥビーの注釈書(الجامع لاحكام القرآن/ القرطبي)(要旨)
5.アル=バイダーウィーの注釈書(انوار التنزيل واسرار التأويل/ البيضاوي)(要旨)
6.イブン・カスィールの注釈書(تفسير القرآن الكريم/ ابن كثير)(要旨)
7.ジャラーライン(アル=マハッリーとアッ=スユーティー)の注釈書(تفسير الجلالين/ المحلي و السيوطي)(要旨)
8.アッ=シャウカーニーの注釈書(فتح القدير/ الشوكاني)(抜粋)
各解釈書に表れた見解の整理
纏め
*1 ↑ アラビア語で動詞の未完了形(imperfect)は、終了していない行為を表す。
*2 ↑ アラビア語で動詞の完了形(perfect)は、終了した行為を表す。詳しくは、W・ライト著、後藤三男訳、『アラビア語文典』、ごとう書房、1987年、下巻、2-43頁を参照。
*3 ↑
*4 ↑
*5 ↑ 以下、タフスィールのアラビア語文はhttp://www.altafsir.com/所載のものを、適宜刊本を参照しつつ引用した。